雪かきのある人生

 物凄い雪が降った。それが昨日。
相当な積雪量らしい。ついったーがそう言っている。

昼食のカレーを温めながら、外から聞こえるザーッ、ザーッといった
なにかがこすれるような音。子供が雪で遊んでいるのかもしれない。
我が家にのぞき穴はないので扉を開ける。
人。
お隣の奥さん。


一瞬目が合う


そっと扉を閉じた。

あれは雪かきだ。
雪の降る地域に住んだことのない俺の意識からは遠いところにあったが、
人が、車が、滑って事故が起きないように、自宅の前の雪を各々が端に寄せる。
何かで聞いたことがある。

温まったカレーを食べながら思う。
自分も自宅の前をやるべきなのか‥。
確かに他所はほとんど雪かきを終えていて、
我が家だけが白銀の世界に取り残されたかのようだった。

やめておこうか。他に優先すべき作業もある。
この地域からもあと数ヶ月で去る。
やらなくとも特段問題はない。


何とも言えない居心地の悪さ。
カレーを食べ終わる。
自室に戻って軍手をつけ、ダウンを着て外へ。
スコップなどあるわけがないのでちりとりをスコップ代わりに。

作業を始めて数分後、さっきの奥さん。
「悪いわね、なんだか誘い合わせちゃったみたいで」

それからさらに十数分。
大方の作業が終わる。
奥さんがやっていたのは、表面の雪かきが終わった後に残る凍った箇所を
取り除く作業。

奥さんのようにやるには少し忍耐が足りなかったので
沸騰したお湯を撒いて代用する。

自宅に戻り際、隣に住むおっさんの駐車スペースが目に留まる。
白い。坂道の中ほどから入るその駐車スペースは白かった。
なぜかわからないけど、けっきょくそのおっさんの分の雪かきもやる。
きっと本人は、もしかしたら誰かが雪かきをしてくれた
その事実すら気が付かないかもしれない。
それでも、良かった。

不意に、正義とか、公共の利益について考える。
いつもよく思うこと。それの実践版がまさに今日だった。
達者な弁論より、まず雪かきを。何かを一つ学んだ。

知らずにいたら失っていた何かを
失わずに済んだ、ありがとう奥さん、
心の中で小さくつぶやく。

足は濡れたし手も腫れた、けど、心は晴れた。
ゆっくりとコーヒーを飲む。雪を溶かしたあの湯で。

雪かきがある人生、いいじゃない。
Remove all ads